愛しの愛しのご主人様…

いよいよ最低気温がマイナスになるようになった。この町は、真冬になるとマイナス15度になるため、鶯の声が響くまでは一面灰色の景色になる。(常緑の木々やモミやイチイなどの針葉樹の葉でさえも色が3トーンほど彩度が下がってグレーっぽくなる)

関東では強健で大きく育つ金木犀や、冬の生け垣を鮮やかに彩る山茶花も、冬の間屋外で育てると春先には瀕死の状態になってしまうため、どうしても寒さが苦手な植物を育てたければ家の中に避難させなければいけない。

はっきり言って手間だし、面倒くさい…。

我が家も南面にサンルームを授け、常緑樹、多肉植物など50鉢ほどを冬越しのためせっせと避難させる。

中には、インパチェンスや、ベコニアなど一年草扱いのモノもあり、珍しい品種以外はわざわざ手間をかけるより、地植えのまま枯らしてしまって、翌年新しいものを買った方が効率良いのだが(1苗100円ほどだし…)、花壇の方から、

「ああ、私たちは見放されてしまうのね…。あ~あ、どうせね…あたしなんか安物だし…しょうがないわよね…。」

と、恨めしそうな声が聞こえてきそうで、ついつい掘り上げて鉢に植え替え避難させてしまう。これが何年も続くと情も沸いてしまうから厄介だ…。

さ・ら・に…!

サンルームだと屋外がマイナス1、2度であれば全然問題ないのだが、マイナス5度になると寒さを防ぎきれなくなるため、夕方になると寒さに強い鉢以外は室内に移動させなければいけないのだ。

…面倒くさい。

さ・ら・に、さ・ら・に…!!

本当はそのまま室内で育てられればいいが、ただでさえ日照不足になりやすい冬の期間に日差しが届かない部屋に中に入れたままだと、ひょろひょろになってしまうため(特に多肉植物は絶望的)、朝になると再びサンルームにすべての鉢を移動させる。この時、水やり、葉色のチェック、剪定した枝を差し芽して…などとやっていると、軽く1時間ほどかかってしまう…。

本当に面倒くさい…。

面倒だったらやめればいいのだろうが…どうにもこうにも植物達が愛おしくてたまらないから、やめられない!

しかも、手のかかる男に惚れた女と同じで、実は面倒くささに喜びを感じてしまっているから、あ~質が悪いったらありゃしない!!

「ご主人様、今日の調子はいかがでしょうか?」

「さ、さ、ご主人様、新鮮なお水をお召し上がりください!」

「な、な、なんと!ご主人様、花が咲きそうではありませんか!めでたや!めでたや!」

「ぎゃ~ご主人様!葉色がよろしくないではありませんか!あ~ばかばか!私の手入れが悪かったのですね!すみません!すみません!あ~わたしのばか!」

「あ~~~ご主人様~~~!」

………真性の植物マゾだ…。

そんな感じで、毎日わちゃわちゃどたばたと、部屋を行き来している私の姿を見ながら旦那は、

「お、今日も植物の奴隷はたいへんだなぁ~!」

と冷たい視線を投げつけるのだが、構いやしない!今日も下僕は緑あふれる部屋の中で、嬉々とお仕えするのでありまする!

「ご主人様~!!」

(……昨年から沈丁花の花の香りが懐かしく、1鉢欲しくてウズウズしている今日この頃…。もう救いようのない病気だ…!)